主要な研究テーマ
豊島園遊園地における観客流動計画(1969)
園内を回遊する観客行動を30秒ごとに記録するという独自の歩行軌跡の追跡調査から、回遊行動の特性を明らかにし、園内への新しい施設導入に際して適正配置を助言した。特に「左回り(反時計回り)」の実態を解明し、これに沿った施設配置が実施され、園内の滞在時間を増やすことに貢献した。
独創性:遊園地における回遊行動を国内で初めて調査した点、および行動解析にマルコフ過程という数学の考え方を建築計画学に初めて導入した。
沖縄国際海洋博覧会動線計画(1975)
通称「海洋博」の会場計画基本構想の段階で、メインゲートの位置、新交通システムの駅、会場外駐車場の規模や配置が未確定だったのに対し、DYNAMOというシミュレーション専用言語を用いて、会場内動線をモデル化し、いくつかのケースを想定してシミュレーションを実施した。この結果を比較検討して最終的な実施案が決定された。その後の追跡調査により期間中の会場内の観客分布の適正化が明らかになった。
独創性:群衆流をシステムダイナミックスのフローとストックという概念でモデル化したが、その後の群衆流研究や避難モデルのひとつの定番となった点、およびその後、日本国内で開催されたすべての国際博覧会の会場計画を支援および観客流動調査を実施注)した。
新宿西口地下歩道の拡幅計画(1984)
新宿副都心の建設当初、地下歩道で朝の通勤時に群衆流が発生することから、計画を担当していた坂倉建築研究所から歩道幅員の適切な規模が求められたのに対し、サービス水準の考え方を日本で初めて導入し、これを評価関数とした群衆流動計算を行い、必要な幅員を提示した。これに基づいてその後の整備計画が実施された。この時の調査の内容の一部は、NHKの番組『トライ&トライ」で群衆の行動特性として放映された。
独創性:J.フルーインの提唱した歩行者空間モジュールやサービス水準という概念は、群衆流の状態を表示するものであったが、これを具体的な規模計画に適用した。
東京都臨海水族園の観客流動予測(1987)
現在の葛西臨海水族園の基本計画の段階で、谷口建築設計研究所の依頼により、館内の観客流動シミュレーションを実施し、水槽の位置変更、アプローチ歩道の幅員拡幅、さらに避難出口の増設など、快適性と安全性を確保した計画内容に変更することに貢献した。
独創性:これまで独自に実施した美術館、博物館における時系列的な観客流動の調査データから、汎用的な観覧時間の推定が可能になっており、それがモデル化の基礎となった。
MoMAミュージアムの館内流動予測(2000)
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の増築計画(谷口建築設計研究所が担当)における観客の館内流動計算を行った。高層ビルにおける避難時以外の流動予測はそれまで例がなく、エレベータ、エスカレータを含む縦動線を伴う流動計算の新しいモデルを提案できた。この予測結果に基づきMoMAが必要ないと主張していたエスカレータが実施計画では導入され、館内のスムーズな流動を実現することに貢献した。
独創性:平面上での流動モデルは、最近では多く存在するが、いくつものフロアをまたいだ全館流動は従来行われて来なかった。研究室では不特定多数が来館するいくつかの施設で3次元的な追跡調査を実施しており、そのデータが有効に反映されている。
明石歩道橋事故検証(2001)
兵庫県明石市での群衆災害事故発生直後に、日本テレビの依頼で事故のあった歩道橋での群衆の流動を再現した。実際に事故が発生した地点で想定以上の群衆が密集している状態を流動シミュレーションにより予測し、これを視覚的に示すことで歩道橋の空間上の不具合(幅員不足、ネックなど)を指摘した。
独創性:従来からいくつかのタイプの群衆流モデルを開発していたが、わずか数時間で実際の挙動とほぼ同程度の精度で予測が可能なシミュレーションが実施でき、刻々と変化する流動状況をテレビのニュース報道で使えるように視覚的に映像化できた。
食物アレルギー者対応メニュー提供システム(2003)
食物アレルギーのために生活行動圏が限られている人が安心して外出できるような街づくり、あるいは施設づくりのためには、それを支援する情報システムが不可欠である。そこで、情報関連会社トッパン・フォームズ(株)と共同で、事前に診断された身体情報(アレルギー、生活習慣病、視力など)をWHOが定義するICFコード注)でICカードに記録しておくことにより、それを提示すると個人の身体状況に合わせた適切なメニューが表示される端末システムを開発した。
独創性:建築環境との対応でICFコード注)を導入、さらに建築分野へのコード化に新たな提案をしたのは、この研究が世界で初めてである。
こどもとげんきが育つ家(2008)
子どもの体力向上に関する山梨大学の中村和彦教授との共同研究を背景に、日常生活の中で子どもが元気になるような建築空間を実現しようという意図から、(株)パナホーム北関東の住宅展示場に「こどもとげんきが育つ家」の設計指導をした。子どもの普段の基本動作で欠けている「のぼる」「くぐる」などのいくつかの基本動作が日常から行えるような部屋配置、規模、造作などを提案したが、展示場では多くの来場者が訪れ、実際に新築住宅に取り入れられた例もある。
独創性:子どもの体力不足を指摘する報告は数多くあるが、それを体操というソフトな解決にとどまらず、日常生活の中で体力向上を支援するような場を住宅内に実現しハード面から解決した。
こころもからだも元気になるまち-明和町(2008)
典型的な地方小都市において、車中心の生活習慣になることに問題を提起した群馬県邑楽郡明和町からの依頼で、歩いて暮らせる街づくりの基本構想を策定した。従来言われていた半径500メートルの歩行圏ではなく、独自に行った高齢者の日常生活行動圏域調査から、各地区毎に住民の健康度を算出し、これを基準にした街路整備および外出促進のためのバス乗降システム・遊歩道整備などを提案し、議会で採択された。
独創性:歩く魅力を外部空間の施設充実とそれらをネットワークにした運営システムを提案した。
SimTread(グッドデザイン賞、2010)
行動シミュレーションによって群衆のふるまいを視覚的に確認し、あらかじめ問題となる箇所を抽出することができれば、より安全で快適な建築計画が可能となる。そこで、CADと連動し、個人単位で歩行行動を判断し決定するオブジェクト指向型のシミュレーションシステムを、(株)竹中工務店およびエーアンドエー(株)と共同で開発した。これは主として避難時の行動を予測する避難行動シミュレータであるが、不特定多数が集中するイベントなどの日常の動線計画のスタディにも利用できる。
独創性:従来の避難シミュレーションは、避難時間と滞留人数だけが数値として計算されたが、SimTreadでは、避難開始から終了までの平面上での群衆の動きが一人一人視覚的に把握できる。
博覧会観客動線調査
大阪万博以降に日本で行われたすべての国際博覧会の観客動線調査を担当し、会場計画の段階から観客の動線予測を行い施設配置や観客誘導に貢献した。また、国際博覧会だけではなく地方博においても観客流動調査を実施し、膨大なデータを蓄積している。
これまでに調査した博覧会一覧
1975 沖縄国際海洋博覧会(1975年7月20日 - 1976年1月18日)
1978 宇宙科学博覧会(東京都、1978年〜1979年)
1981 神戸ポートアイランド博覧会(1981年3月20日から9月15日)
1982 北海道博覧会(北海道札幌市、1982年)
1983 大阪城博覧会(大阪府大阪市、1983年)
1985 国際科学技術博覧会(1985年3月17日から同年9月16日)つくば博
1989 横浜博覧会(YES'89、神奈川県横浜市、1989年)
1990 国際花と緑の博覧会(大阪府大阪市、1990年)花博
1993 大田国際博覧会(1993年8月7日から11月7日)韓国
2005 日本国際博覧会(2005年3月25日から同年9月25日)愛知博
受託研究・共同研究
建築設計のための知的CADシステムの一般住宅への適応可能性調査およびオブジェクト指向他の研究 東京ガス株式会社 1993.8-1994.3
市立北九州大学基本構想計画 株式会社 環境計画 1993.4-1994.3
駅及び周辺の人間流動調査 清水建設株式会社 1993.11-1994.3
アーバンリゾートフェア計画 株式会社 ユニオン技術研究所 1994.2-1996.1
駅附随施設における時系列利用者数の調査 清水建設株式会社 1994.12-1995.3
マルチメディア時代における労働と余暇に関する調査 財団法人 余暇開発センター 1996.9-1997.2
ウォーターフロント開発計画とプロジェクトプロデュースの研究「下関港ウォーターフロント開発検討作業」 株式会社 ユニオン技術研究所 1996.4-1998.3
インターネット上の建材データベースの構築、運用 建材設備情報センター 1997.4-1998.3
空港周辺整備構想施設利用動向調査 株式会社 ユニオン技術研究所 2000.5-2001.2
ニューヨーク近大美術館増改築工事に伴う動線計画の研究 株式会社 谷口建築設計研究所 2000.10-2001.2
集住コミュニティー形成のためのインターネット技術に関する調査研究 共生型すまい全国ネット 2001.7-2001.12
集住のためのシニアコミュニティ形成に供する情報技術に関する調査研究 株式会社 生活科学運営 2001.4-2003.3
函館金森倉庫群開発入場者予測の研究 合資会社 オムニクラフト 2001.9-2001.9
人の集まる場の人間行動の計測技術と行動解析技術の研究 株式会社 東芝 2001.11-2003.3
空港周辺整備施設利用動向調査及びアンケート実施業務 株式会社 ユニオン技術研究所 2002.3-2002.9
オブジェクト指向ビジュアル群集流動シミュレーターの研究 株式会社 竹中工務店 2002.4-2003.12
環境重視型建設ヤードシステムの事業化調査 2003.4-2004.3
ICF情報を活用した将来型病院システムの研究開発
ワーク効率とワーカーの健康面から評価するオフィスワークスペースの規模と配置に関する研究
建築物内部におけるICタグの適用シーンの調査・研究
レジャー施設を対象としたWebマーケティング技術の研究
非健常者を考慮した暗視下における蓄光式避難誘導システムの研究
人の滞留を促す環境要素とその配置に関する研究
健康住宅「子供と元気が育つ家」の設計・装備に関する研究
滞留空間における滞留行動を促す要因に関する研究
こころもからだも元気になるまち⊸明和町+早稲田大学・健康都市に関する共同研究⊸
人の日常行為への五感刺激フィードバックによる人にやさしい空間デザイン技術の研究
住宅の中の「モノと人」との関係の共同研究テーマ:これからの操作系作法のあり方
駅空間における非常時を含めた旅客の行動特性の解明
銀座六丁目計画に伴う百貨店・オフィス複合施設における人間行動シミュレーションの研究
住宅の中の「モノと人」との新しい関係に関する共同研究テーマ:これらの玄関空間、及び身支度行為の提案
こども用の学習デスクでの学習効率についての研究
幼児が寄り付きたくなる、さそわれやすい、長く滞在する家具についての研究
UDプラス仮説概念の研究
都市における休憩需要をもとにした休憩空間の配置計画に関する研究
住宅の中の「モノと人」の新しい関係に関する共同研究テーマ:これからのLDK空間の行動観察による新しいあたりまえ提案
回遊空間における情報サービスに関する研究
映像からの旅客分布取得に関する研究
非住宅空間(鉄道駅)における行動観察手法を用いた商品開発手法を実践し、その結果をナレッジ化する共同研究
映像からの旅客分布予測に関する研究